【徹底レビュー】ヴァシュロンコンスタンタン フィフティーシックス・オートマティック

Watch Review

以前「はじめてのドレスウォッチ選びシリーズ」でヴァシュロンコンスタンタン フィフティーシックス / Vacheron Constantin Fifty Sixを取り上げておりましたが、実はその後色々ご縁があって、3針モデルのシルバー文字盤を購入しておりました。

かなり人気が高いモデルで、特に青文字盤は人気で現在も入荷が無い状況が続くと聞きます。シルバー文字盤も結構待つ様で…しかしたまたまシルバー文字盤を正規店で購入できましたので、本当に運が良かったです。今回購入後、4ヶ月程が経ちましたので使用レビューをお送りします。

今回は他のサイトのレビューで紹介されている良いところ・悪いところをまず整理し、そのうえで私が思うところを徹底レビューとしてお伝えさせて頂ければと思います。

巷のレビューのまとめ

ヴァシュロンコンスタンタンの中でも100万円台で買える唯一の時計かつオールマイティに使える一本、というのが総評でしょうか。1956年の過去のモデルをオマージュしておりクラシック感と物新しさが共存したデザインだと思います。メーカーとしても新規層の開拓のための一本なので、まさに狙い通りではないでしょうか。

他のサイトや動画におけるレビューに書かれているところは、概ね以下の通りかと思います。

良いところ

  • 高いデザイン性。「デイリー・ラグジュアリー」のコンセプト通り、ドレッシーさとカジュアルさが絶妙なバランスで調和
  • カジュアルでもフォーマルでもイケるので、使用シーンが広い
  • サファイアクリスタルバックから見えるムーブメントが特に美しい。仕上げは雲上級

いまいちなところ

  • ムーブメントは自社製オリジナルではなく、かつヴァシュロンのお家芸であるジュネーブシールは取得していない
  • パワーリザーブが42時間しかない

総じて評価は非常に高いです。これらの点を踏まえて、私独自の観点からレビューしていきたいと思います。

 

ケースデザインと文字盤の仕上げは本当に秀逸

ケースデザイン

ケースデザインは唯一無二で、かなり気に入っているポイントです。よくよく見ると意外と複雑な意匠になっています。ケースサイドはリューズが半分埋め込まれたような形になっているために、他のドレスウォッチには無いスポーティさを醸し出しています。ベゼルの側面からケース本体、そしてラグにかけて一体化されているデザインで、幅広に見え存在感があります。

この公式HPの画像を見ると、そのケース形状の特殊さが良くお判りいただけるかと思います。ベゼル、ケース側面からラグにつながるパーツ、ラグの根本部分の3つの構成になっています。サファイヤクリスタル風貌からベゼル、ケースサイドにかけてのなだらかな段差が非常に美しいです。

またラグの形状はマルタ十字を模していると言われていますが、正直そんなにマルタ十字感なくね…?と思ってます笑。こちらのサイトでも同様のご指摘をなさっており、ああそういうことだったのね、とようやく理解しました笑。ご参考まで。

文字盤と針

そして文字盤はアラビア数字とバーがミックスされたインデックスと、円周に向かって3層に分かれたダイヤルの仕上げ。中央はオパーリン仕上げ、外縁はサンレイ仕上げになっています。かなり手が込んでおり、見ていて飽きることがありません。

そして針のデザインは、この時計に適度なカジュアル感とクラシカルな印象を与えています。形状としてはペンシル針の一種でしょうか?夜光部分が大きめ。秒針はスラっと長く、カウンターバランス部分から鋭く伸びています。

エクスプローラーのメルセデス針と比較しても、フィフティーシックスの方が夜行は大きいですね。もう少し幅を細くして、デイトジャストぐらいの控えめな夜光だとドレッシーだったかも?

加えて、私が非常に重要だと思っているポイントは、このインデックスと針にホワイトゴールドが使用されていること。雲上時計である矜持を感じます。

ホワイトゴールドの良さは言葉ではなんとも表現し辛いのですが、他の素材よりも艶のあることと、反射にムラがないように思えます。私の持っているJLCのマスタームーンの針はパラジウム加工の真鍮でして、それと比較するとホワイトゴールドの方が明らかに仕上がりが良いです。

ちなみに夜光も相当にきれいです。発光時間の寿命は少し短めです。

サイズは気持ち大き目ながらも、使用シーンは本当に幅広い

綺麗めカジュアルからスーツまで、幅広くこなせるのは間違いないです。バーインデックスやローマン数字が使われたドレスウォッチに比べると、肩肘張らない柔らかい雰囲気になります。

サイズとしては、40ミリのケース径で厚さ9.6ミリ。Lug-to-lugは実寸で47.9ミリ。界隈に存在する「ドレスウォッチは36-38ミリ径が至高!」と言ってきかない勢(私もその一派に片足つっこんでます笑)からすると、このサイズは大き目に思われるでしょう。実際、38ミリ径だったら良かったのになぁ~と思わないこともないです。

しかしそこはガチドレス枠と「棲み分けをしている」と捉えるのが良いのではないでしょうか。サイズ感からも敢えてのカジュアル感。その余裕を楽しむのがフィフティーシックスという時計かと思います。

使えるシーンは本当に幅広いです。私が特に気に入っているのはネイビースーツとの組み合わせ。ダークネイビーに白シャツ、タイドアップのかなりビシッとした着こなしに、少し遊びのあるフィフティーシックスが良く映えると思います。また、スーツは着ないけどジャケパンを着る様な少しリラックスしたビジネスモードには、この上なく合う時計だと思います。

 

実はバックルとベルトが超優秀

私がひそかに一番気に入っているのは・・実はバックルがめちゃくちゃかっこいいんです。マルタ十字がモチーフとなっておりヴァシュロンらしさを示しているだけでなく、薄さと装着性も良いんです。

プッシュボタン式なのでスムーズに脱着が可能。ボタンがないDバックルは基本「ガチン」とはめ込むタイプになると思いますが、はめごこちが硬かったり傷が気になったりと、多少なりストレスがあります。その点、フィフティーシックスのボタンはかなりスムーズで、相当優秀なバックルだなぁと感心します。

また、もう一つの推しポイントはレザーベルトの質感がめちゃめちゃいいこと。ランゲやルクルトのベルトに比べると芯材がしっかり目に入っており、初めて付けた瞬間から柔らかく手首になじみます。

公式HPの画像だとブラックなのですが、なぜか私のものはブルーグレーというか、濃紺に近い色味をしています。均一なカラーではなく、少しムラ感のある仕上げで光の当たり具合で表情が変わります。是非付けてみて体感してほしいベルトです。

ムーブメントの仕上げは素晴らしいが(値段なりの)性能は正直期待できない

ムーブメントは1326という自動巻きキャリバーを積んでいます。カルティエの1904MC-PSをベースに作成されており、ヴァシュロンが装飾を施しているそうです。ちゃんと細部まで面取りと磨きが施されており、仕上げの良さはさすがの雲上時計。特にローターに付されたマルタ十字はしっかりと肉抜きかつ鏡面仕上げが施されていて、22Kの輝きを十分に楽しむことができます

もとになった1904MCと比較すると、フィフティーシックスに施されたその加工技術の高さと手の入り具合が良く分かります。通称「リシュモンキャリバー」として、リシュモングループ内の共通ムーブメントとして位置づけられたモノを使用しているので、コスト面でも効率化が図られているのではないでしょうか。

仕上げには大変満足していますが、気になるのは精度。日差は私の個体では10秒程ありまして、手持ちのロレックスやジャガールクルト、ランゲと比較するとかなり精度が不安です。とはいえクロノメーター認証やジュネーヴシールを受けている様なモデルではなく、日差+/-何秒以内といった精度保証を公式に謳ってはないので、決してヴァシュロンが悪いわけではありません。SNS上で聞いたところ、同じような日差の個体もいらっしゃいますし、日差が全くない個体をお持ちの方もいらっしゃいますので、一概に性能が悪いとも言えません。

しかし、2022年11月現在の定価174万円であることを考えると、もう少し精度高くてもいいのになぁ・・・と思ってしまうのが正直なところ。ここだけ少し残念です。

ジュネーブシールを獲得しないことで低価格に抑え、普及価格帯にしているのは私は面白い取り組みだと思います。フィフティーシックス・デイ/デイトのモデルではジュネーブシール付きで286万円の値段設定なので、ジュネーブシール取得にかかるコストは相当なものなのではないでしょうか。何も根拠はありませんが、3針モデルにジュネーブシールを付けると2-3割増しになって200~220万円ぐらいの価格設定になってもおかしくなさそうです。そして商品自体の流通量も激減するはずなので、売れ筋モデルをより多く生産したいというメーカーの意向もあったのでしょう。この辺りがどうしても気になる方は、フィフティーシックスに手を出すのはやめておいた方が良さそうです。

また、パワーリザーブは42時間。最近は72時間のものが増えてきている中で、少し見劣りする数字です。精度、パワーリザーブを考えると、同価格帯ではジャガールクルトのを購入した方が実用面では満足がいくと思います。(マスターコントロールに使用されいるキャリバー899は、スイスクロノメーター基準より厳しい「1000時間コントロールテスト」を実施しているほか、70時間パワーリザーブに5気圧防水の性能があります。結構すごいです。)

フィフティーシックスのムーブメントは時計好きにとって非常に議論の分かれ目だと思いますし、自社ムーブメントが好きな方は「ガワ時計」だと揶揄される方もいらっしゃると思います。私個人としては、見ごたえのある仕上げと価格に免じてしゃーなし!と思います。

結論

以上、外装とムーブメントについてレビューさせて頂きました。冒頭で挙げた巷のレビューに対して、私が感じたところを黄色で追加してみました。

ムーブメント機能の問題はあれど、私個人としてはそれを大幅に上回るデザインの秀逸さと仕上げの良さに大きな価値があると思っています。ガチドレスウォッチに求めるようなストイックな使い方ではなく、ステンレス素材ですし、精度も愛嬌と考えて肩ひじ張らずに使えるリラックス時計として捉えると愛着が湧いてきます。そう考えられるのであれば、個人的には買って後悔のない時計だと思います。

良いところ

  • 高いデザイン性。「デイリー・ラグジュアリー」のコンセプト通り、ドレッシーさとカジュアルさが絶妙なバランスで調和。ケースデザインが秀逸で、文字盤の仕上げも良い。針とインデックスにホワイトゴールドを使っているのは、ヴァシュロンの矜持を感じる
  • カジュアルでもフォーマルでもイケるので、使用シーンが広い。カジュアルはもちろん、スーツも格上げしてくれる万能機
  • サファイアクリスタルバックから見えるムーブメントが特に美しい。仕上げは雲上級
  • バックルとレザーベルトの質感・仕上げが非常に満足度が高く、実用度が高い

いまいちなところ

  • ムーブメントは自社製オリジナルではなく、かつヴァシュロンのお家芸であるジュネーブシールは取得していない(正しくはリシュモン共有キャリバーを使用。一方で価格がその分抑えられている筈なので、致し方ないか)
  • パワーリザーブが42時間しかない。精度も悪い個体があるので、そもそも認定基準としての精度の高さを求めちゃいけない

どんな人にお薦めか?

オールマイティに使えるとはいえ、カジュアルよりのドレスウォッチであることと、性能に少し問題がある点に鑑みると、ファーストウォッチやドレスウォッチの一本目として選びたい!という方には正直あまりお薦めしないです。

折角ドレスウォッチを買うなら、よりフォーマルなモノを一本持っておいた方が良いと思います。また一本主義の方には、同じ価格帯かそれ以下でもっと精度や耐久性が良いモノを薦めたい(というか一本目の時計で170万も出せる人って超希少だと思いますが…笑)。

まだお手持ちが少ないようであれば、フィフティーシックスの前に金無垢「ガチドレス」(バーインデックスやローマン数字、2針又はデイト無し3針)とステンレスブレスの時計を2本揃える方が先決だと思います。まずはパトリモニーかトラディショナルを買って、次にロレックスのデイトジャストを買いましょう笑。そのうえでフィフティーシックスをコレクションに入れると幸せになれると思います。

一方で、既にある程度コレクションを持っている人には、ニッチなスキマを埋める一本として間違いないと思います。そういう方はウォッチボックスのうち何本かは常に止まってると思いますので、多少精度が悪かろうがリザーブ短めであろうが、極論関係ありません笑。迷わずフィフティーシックスおすすめです。

Hodinkeeさんのレビューに書かれていた以下のコメントがこの時計の立ち位置を上手く表現していると思います。

ヴァシュロン・コンスタンタンのなかでも、フィフティーシックスはパトリモニーと比べて格段にフォーマル性が低く、オーヴァーシーズよりも官能性に欠ける。あえて言えば、フィフティーシックスは少し地味な存在だ。しかし、そこにこそ重要なポイントがあるのだ。

パトリモニーよりもフォーマルでないことで、この時計は(ヴァシュロン・コンスタンタンのような伝統的なブランドが重視する)若年層でもアクセスできる選択肢となり、オーヴァーシーズよりもやや控えめであることで、ブランド内でのカニバリゼーション(共食い)を防ぎつつ、ブランドの最も親しみやすいレベルで多様性を提供することが可能となるのだ。

https://www.hodinkee.jp/articles/the-vacheron-constantin-fiftysix-self-winding

フィフティーシックスが欲しくなった時に検討すべき時計

現在やや入手困難なこと、価格がもりもり高くなっていることを考慮して、他の代替案として3本挙げさせて頂きます。ガチドレスではなく、アラビア数字のカジュアルテイストのあるデザイン、かつステンレス素材の時計をピックしています。

ジャガールクルト マスターコントロール

引用: 公式HP

先にも上げましたが、実用時計としてマスターコントロールシリーズは間違いないです。5気圧防水、パワーリザーブ70時間。ケース径40ミリ。厚さ8.8ミリで、フィフティーシックスより1ミリ程薄いところもポイントです。

カーフレザーベルトのストラップが備え付けになってますが、アリゲーターベルトにするとかなり印象が変わると思います。ルクルトのベルトは工具無しで外せてバックルも取り換えが楽なので、そのあたりの取り回しも良い。機能面では圧倒的にルクルトお薦めですね。

しかしルクルトも名門マニュファクチュールとはいえ、フィフティーシックスと比べるとブランドイメージと外装の仕上げは若干見劣りすると思います。ルクルトのお値段は124万円なので、フィフティーシックスとの50万円の価格差をどう考えるかがポイントかと思います。

さらに、上位機種のマスターコントロールカレンダー(月・曜日・ムーンフェイズがついたもの)が190万円ぐらいなので、フィフティーシックスの予算で問題ないのであれば、そちらも検討してもいいかもしれませんね。

しかし200万が見えてくると、ブレゲ・クラシックの中古も余裕で手に入る世界に突入します。それを考え出すと段々なにが欲しいのかわからなくなってきて、永遠に決められなくなってきます笑。。。

IWC ポルトギーゼ・オートマティック40

引用: 公式HP

これ刺さる人は結構刺さるんじゃないでしょうか、ポルトギーゼ。2針+スモセコなので、フィフティーシックスより文字盤は若干フォーマル寄りにはなります。しかしサイズは40.5ミリ径に12.3ミリ厚なので、一回り大きくカジュアルな印象を与えます。

お値段約91万円。IWCになってくると雲上狙う層とは少し離れてきますが、買いやすさや予算を考えると充分アリな選択肢だと思います。文字盤のバリュエーションも豊富ですし、ステンレスブレスのモデルもあります(交換可能かは未確認)。

ロンジン ヘリテージクラシック タキシード

引用: 公式HP

「ええ、ヴァシュロンの対抗馬にロンジン持ってくるの?」と思う方もいらっしゃると思います。でも一目見てほしい。

これほぼフィフティーシックスじゃないですか?お値段なんと約30万円!!!

サイズは38.5ミリ径、11.7ミリ厚で72時間パワーリザーブに3気圧防水。スペックとコスパはかなりビビるレベルです笑。

もちろん、ブランドやステータス、満足感を考えるとフィフティーシックスの代替にはならないのですが、似たデザインコードがお好きな方には絶対面白い一本です。

最後に

いかがでしたでしょうか。ヴァシュロンコンスタンタン フィフティーシックスのレビューをお送りしました。お持ちの方がいらっしゃったり、ご質問がある方は是非お気軽にコメントやメッセージ頂ければと思います。

最後に記事を書く上で参考にさせて頂いたレビュー記事・動画をご紹介させて頂きます。それでは!

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