はじめてのドレスウォッチ選びシリーズ3回目となりました。前回までの記事はこちらからどうぞ。
前回はJLC/ジャガールクルトのマスターウルトラスリムを試着・検討しましたが、(あまりにも)堅実でいい時計すぎるので見送りました。
今回はヴァシュロンコンスタンタンのドレスウォッチラインであるパトリモニー、トラディショナル、フィフティーシックスの試着レビューを書いていきたいと思います。価格帯やブランドとしては大本命でしたので、試着は非常に楽しかったです!
基本スペック
まずは候補3本の写真とスペックはこちらです。
トラディショナル | パトリモニー | フィフティーシックス コンプリートカレンダー | |
材質 | WG / PG | WG / PG | ステンレス |
ムーブメント | 手巻き | 手巻き | 自動巻き |
ケース径 | 38mm | 40mm | 40mm |
ケース厚 | 7.8mm | 6.8mm | 11.6mm |
パワーリザーブ | 65h | 40h | 40h |
防水 | 3気圧 | 3気圧 | 3気圧 |
値段 | 2,816,000円 | 2,618,000円 | 3,454,000円 |
ヴァシュロンコンスタンタンというブランド
ヴァシュロンコンスタンタン(VC)といえば、1755年の創業から世界で最も歴史が長く続いていることで有名で、超が付くほどの老舗です。VC以外に高級時計三大ブランドの一角を成しているパテックフィリップは1839年、オーデマ・ピゲは1875年の創業ですので、VCの歴史は腕時計界の中でも世界最長とも言われています。
1755年の創業当時のヨーロッパは7年戦争真っ只中、日本は9代将軍徳川家重の時代です。自分で書いていてあまりピンときていませんが笑、そんな古い時代から王侯貴族向けにも作っていたメゾンなのです。そんな時計を手に入れることは、その270年間の歴史を腕にまとうような気がして、ロマンを感じませんか?
また、コーポレートテーマとして掲げている「One of not many」。これが私はとても好きです。Holy Trinityの一角を成していながら、自身を「ナンバーワン」と言い切らずに「優れた少数のものの一つ」と敢えて呼称しているところに、控えめかつ冷静なブランド哲学が見えるのではと思っています。実際にヴァシュロンの時計を見ると、すべて洗練されたデザインながら、決して悪目立ちせず品のある作品が多いなと思います。
サイトに掲載されている宣材写真もとってもオシャレで、もう「はぁぁぁ好き・・」ってなってしまいます(語彙力)。このパトリモニーの写真、本当にかっこよくないですか・・・?着用されているのはきっと40mm自動巻きモデルでしょうね。
試着レビュー
ということで正規店に伺ってまいりましたので、試着レビューをお送りしたいと思います。
まずは大本命のトラディショナルから
まずはトラディショナルから。このシリーズはシンプルな2針スモールセコンドのモデルからコンプリケーションまで幅広いラインナップが展開されています。(参考: トラディショナルシリーズ)
その中でも、私のお目当ては2針スモールセコンドモデル。38mmなので日本人の腕にはジャストなサイズ感かと思われます。
きりっとしたドーフィン針と、一切数字を表記していないダイヤルに力強さを感じます。無駄はないがちゃんと情報はしっかり示す、きりっとした仕事出来るヤツ感は尋常じゃないですね。
シンプルさとトランスペアレントバックから見えるムーブメントがドストライクで、めちゃくちゃかっこいいのですが、ここでまさかの悲報が。。。
WGがディスコンになっているとのこと!
現在PGのみの取り扱いで、PGであっても人気のため納期もかかるとのことで、あえなく断念。PGはPGでかっこいいんですけどね。大本命だった為にあまりにショック過ぎて、試着の写真を撮るのも忘れていしまいました(笑)
強いて難点を挙げるとすれば、白文字盤にもう少し加工があればなお良しだったかな・・?とも思います。後述のパトリモニーにとは違い、非常にフラットな盤面ですし、色味もありません。少し寂しく感じてしまったのは事実でした。
2番目、最もシンプルなパトリモニー
続いて、ヴァシュロンの主力ラインナップであるパトリモニーは、トラディショナルシリーズに比べて柔和でエレガントなイメージが特徴です。(参考: パトリモニーシリーズ)
針とインデックスの形状がより細長くなっていることでドレッシー且つ柔和な雰囲気になり、トラディショナルから大きく印象が変わります。ちなみにパトリモニーシリーズは、2針以外にも40mmの中には3針デイトモデルも存在します。
店頭ではPGでいくつかのバリュエーションで実機があり、見せてもらうことに。(2022年8月時点では、WGはディスコンにはなっていませんでした)
まずは2針手巻き。40mmのケースサイズのため大きすぎるだろうなと思い、正直あまり期待していなかったのですが・・・ところがどっこい。めちゃくちゃかっこいいんです。
まずその特筆すべきは薄さだと思います。その薄さ、なんと6.8mm。通常の一般的なステンレス素材の腕時計が11mm以上が多いと思いますが、それに慣れている私の腕には衝撃的でした。
袖の収まりが圧倒的に良い為、ケース径40mmであっても違和感は全くありません。尺骨(の茎状突起)より手の甲側に付けているということもありますが、私の細腕(腕回り約16センチ)でも問題なさそうです。実際に付けてみると、「うっす!!」と言いたくなります。
さらに、ラグそのものの小ささが腕なじみを良くしてくれていると思います。実測していないのでわかりませんが、Lug-to-lugは47-8mm位ではないですかね?腕の形状に合わせてラグに傾斜がついていることもあり、フィット感も良く大ケース径ですがサイズをあまり感じさせません。
また文字盤もヴァシュロンの細部へのこだわりが見えます。文字盤は外周に向かって湾曲している(文字盤中央が盛り上がっているように見える)のが上の2枚目の写真でお判り頂けますでしょうか。この屈折に合わせて、インデックスも文字盤表面に沿うように曲げられています。長針も先端にかけて緩やかに曲がっています。
「え、それだけのこと?」と思うかもしれません。しかし、このディテールが文字盤に大きく表情を付けてくれています。時計全体的でドーム状に緩いカーブを描くようにデザインされており、柔らかく優しいイメージを形作ってくれています。そもそも秒針が存在しない2針モデルなので、ゆったりとした時の流れをそのデザインと合わせて体感する、極上の一本ではないでしょうか。
40mmという大型ケース径でかつ2針であるため「寂しすぎる」「間延びしている」ことを懸念されるかもしれませんが、決してそんなことはありません。付けてみて初めて分かる、VCのこだわりとデザイン力だと思います。
サイズでパトリモニーを敬遠しまっている方には、ぜひ試着をおすすめしたいです!MMゴリ押しの一本です。
そんな私の感性にはバシッと刺さったのですが、惜しむらくはソリッドケースバック。。。この薄さを達成するために敢えてサファイアガラスを付けておらず、トランスペアレントバックにしていないとのことです。
このソリッドケースバックを開けたムーブメントは、ちゃんとコートドジュネーブ等の加工がしっかり施されたものが鎮座しているそうで、当然ながらジュネーブシール獲得のムーブメントになります。
しかしその美しいムーブメントは日々見ることは叶わず、その中身を妄想して楽しむしかないというド変態玄人向け仕様になっております。2針なので表面も動きがないし、裏側も動きがない。しかしとんでもなく美しいムーブメントがその内側に隠されている。。。なんという贅沢仕様でしょうか。
私の手持ちはこれまでソリッドケースばかりでしたし、初めての雲上ブランドのムーブメントを見る楽しみがないのは勿体ないと思ってしまった為、このパトリモニーは見送ることにしました(でも、正直これはいつか欲しい・・・!)
また同時に、36mmの自動巻き、デイト付のモデルも見せて頂きました。なんとサイズ感良し、シースルーバックありということで、前述の40mmモデルの課題をクリアしています。
サイズ感はばっちりで非常にかっこいいのですが、私には40mm手巻きモデルにあった文字盤の魅力がそぎ落とされてしまった様に感じてしまいました。一見そのまま縮小コピーと思いきや、ディティールは全く異なります。文字盤はフラットになり、秒針とデイト表示があることでかなり情報量が多くなっているほか、針の太さがかなり印象を変えています。
自動巻きということもあり実用性という意味では圧倒的にこちらに軍配が上がるのですが、40mmにあった「余裕を楽しむ」魅力は無くなってしまった様に感じます。よってこちらも見送り・・・。ちなみにこのモデルは作っている数も相当少ないみたいで、現品があるのは非常に珍しいと店員さんがおっしゃっていました。
40mmの自動巻き(3針デイト)のモデルについても、モノは見させてもらいましたが、こちらもちょっと違うなぁと感じてしまったので見送り。
3パターンほど見比べてみて、パトリモニーの神髄は2針モデルにあるなと強く感じました。もう私は2針原理主義者です笑。
最後にフィフティーシックス
フィフティーシックスシリーズはVCの中でも新しいラインナップで、2018年発表。1956年に発表の過去のモデルから着想を得ており、VCでは珍しいアラビア数字のインデックスが採用されています。
パトリモニーやトラディショナルに代表されるような金無垢時計の「ザ・ドレスウォッチ」然としたたたずまいとは対照的に、フィフティーシックスはよりカジュアルに時計を楽しむ「インフォーマル」ウォッチとしてポジショニングしています。(参考: フィフティーシックスシリーズ)
上の画像に挙げたステンレス3針のモデルは入手困難で予約も難しいようです。
コンプリートカレンダーは月日、曜日表示に加えてムーンフェイズが搭載された「特盛」モデルになります。(こちらパトリモニーとは別日に見たため、撮影を失念してしまいました。。。)
ケース径は40mmで3針モデルと変わりませんが、厚さは9.6mmから11.6mmへ2mm程サイズアップ。とはいえ、この複雑機構を搭載してこのサイズ感はかなり小さい方ではないでしょうか。雲上ブランドの複雑機構ものが300万円前後の値段で買えることに非常に心が揺らぎます。(2022年3月当初。8月現在では345万円まで値上がりしてしまっています。。。)
デザインも非常にカッコいいのですが、最大の懸念は「本当にステンレスでもいいのか?」というところ。ジャガールクルトのウルトラスリムムーンを「実用的すぎる」という理由で弾いており、今回ラグジュアリー感を求めることに舵を切っていた為にステンレスだと物足りなくなるのではと思ってしまいました。
また、今回仕事用のシンプルなものを探していたので、「雲上×複雑機構」はまたいつか別の機会でもいいのではとも思い始めました。コンプリケーション系は丈夫というわけではないので気を遣いますし、メンテ代が一般のモデルより高くつきます。
ドレスウォッチ初心者の私には手に余るか、もう少しドレスウォッチ慣れしてからのトライでもよいのではと思い、結果的に見送ることにしました。
難航を極める時計選び
ヴァシュロンコンスタンタン、実機はどれも良かったのですが決め手がなく選びきれませんでした。。。
もともとの個人的な下馬評では、トラディショナルが★★★★、パトリモニーとフィフティーシックスが★★でしたので、見る前はここで決まるんじゃないかな?と思ってましたがそんなこと無かったです。思いのほかパトリモニーが良すぎたのですが、今のタイミングじゃないな~というのが正直なところ。そしてドレスウォッチ選びの難しさを痛感したのが今回でした。2針または3針で非常にシンプルなデザインであることで、細かなディティールが非常に気になってしまい、「あちらが立てばこちらが立たず」状態に陥ってしまうことが良く分かりました。
そんな混迷を極める状態のまま、次回はA.ランゲ&ゾーネについて書いていきます。
ここまでご覧いただきましてありがとうございます。それでは!
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