腕時計って資産性だけが大事なの?【あなたの知らない高級腕時計】

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先日、Twitterの腕時計クラスターで少し話題になったYoutube動画がありましたので紹介します。

中田敦彦さんの「あなたの知らない高級腕時計

 

時計を全く知らない人に向けて、中田さんらしくわかりやすい言葉・メッセージと寸劇で、相変わらずこの表現力はすごいなぁと思うばかりです。要点をまとめると以下のような内容になります。

  • 機械式腕時計は職人が精巧に作ったもので、非常に高価
  • 大金持ちは億円レベルの腕時計を資産を保有するという目的で購入する。そのクラスの時計を買うために数百万円の腕時計を何本も買って実績を作っている
  • 腕時計は有事の際(戦争、国外逃亡等)に持ち運べて換金性も高く、他の資産よりも優れている
  • そうした金持ちはとにかく時計を褒めてほしい。「え、それヴァシュロンコンスタンタンですよね?!先見性がありますね!」と言われたい

うーん、正直億円レベルの時計を買う人の知り合いがいないのでその真偽はわからないですが、少なくとも「持ち運べて換金性の高い資産として時計を買う」というのはかなり穿った考え方だと思います。中田さんの動画は非常に広範な視聴者層がいるので、多くの方にわかりやすく面白く感じてもらうために、かなり表現・メッセージを絞ってくれていると思うので、あえて多面的に説明はしていないんだと思いますが。

中田さんが本当にこの話を信じてしゃべっているかは別として、Youtubeのコメント欄を見ると「全く知らない世界でした!」「こんな話を分かりやすく面白く話してくれるなんて天才!!」「明日からヴァシュロンコンスタンタン、練習します!」といったコメントが太宗を占めていますので、中田さんファンの方々は内容を受け止めているものだと思われます。

この動画に始まったことではないですが、最近時計投資に関してメディアがあおったり、それに対して否定的な記事を時計メディアが書いて応酬したり・・そんなやり取りがなされています。ディープに時計にはまっている方々以外に、「時計購入=資産性の為」という方程式が広まってしまっているのでは?と少し懸念しています。

 

億円以上の時計で有名なのは、このティファニーコラボのパテックフィリップ「ノーチラス」。世界限定170本が販売され、2021年のフィリップス・オークションでなんと650万ドル(約7億4,000万円前後、当時の為替)の値段が付けられています。

元値は5万ドルちょっとらしいので(それでも相当高いですが)、120倍以上にもなります。投資対象として見たときに、そんなリターンを叩き出せる金融商品はないでしょうし、資産としては非常に魅力的なのは誰の目にも明らかです。

ただそれは雲の上の話過ぎるので、もう少し卑近なところに目線を落として、中田さんの言っていることが正しいのかどうか、そしてなぜ高級時計を人は買うのか、少し考えたいと思います。

そもそも億円クラスの時計の流動性は高くないのでは?

「有事の際の換金手段」としての腕時計の有用性が言われていましたが、実際はそこまで流動性が高くないのではと思います。

その理由の一つは、買い手が少ないと想定されるから。億円単位の仕入れができる時計中古店も少ないでしょうし、それを個人を自分のツテのみで販売するのは相当しんどいと思います。確かに、日本以外の海外のマーケットでは個人売買が盛んでありGrey Marketなんて呼ばれる程なので、富裕層をターゲットにするブローカーがいてもおかしくありません。しかし額が額なだけに、個人がロレックスを手軽に並行店に売るのと訳が違います。

一般論として、金融商品でも不動産でも、融資が付かないモノは基本的に買い手が非常に限定されます。貸す側の銀行として、数千万~億円を無担保で貸すのはまず無いでしょうし、担保も担保性がある(市場価値がある、またはキャッシュフローを明確に生む)ものに限られます。一般的な株式投資をゼロから始める際にローンが付かないのと一緒で、そこに証券そのものを担保にしないとレバレッジは利かせられないのです。

よほどの大富豪でプライベートバンクの顧客であれば、購入する時計を担保にお金を借りるというのはあり得るかもしれません。でもそうした大富豪も、中田さんがいうような「戦争・国外逃亡」のような危機イベントの際に与信力が変わらないのでしょうか。億円腕時計を買うための資金が潤沢に市場にあるとは少し考えづらいです。

また有事の際に持ち主は恐らく売り急いでいるでしょうし、ティファニーロイヤルオークの様に悠長にオークションをやっている場合ではないと思います。市場の適正価格よりも買いたたかれる可能性もそれなりにあるのではないでしょうか。

「資産目的」だけでなく、絵画や美術品と一緒でその審美性に惚れて時計を買う、というのはどんな大金持ちであっても必ず存在するのではないでしょうか。 

 

実際、投資目的で買ってる人達で相場が成り立っていると思う

億円を変えてしまう貴族は一旦置いておいて、一般市民レベルではどうなのでしょうか。

実際、新品・平行問わず市場で購入されているロレックス(その他ブランドの人気モデル)の多くは、「資産性」または「転売」目的ではと思います。

半年ほど前、銀座の某並行店の店長さんは「並行店で買われる方の7-8割は投資目的で買っています。残りが趣味で買っている人ですかね」と仰っていました。

もちろん古物商の資格を持って「商い」としてやっていらっしゃる方もいると思いますが、そうした方々が買う値段で売れる、すなわち価格形成はその人たちの目線で行われているということ。

また新品を正規店で買っては、購入した袋をそのまま並行店にもっていく「袋ダッシュ」を行う転売ヤーも相当な数いると思います。これは統計をとれるものではないですが。。メディアでもさんざん取り上げられてますし、Youtuberでも、時計投資!みたいな方が増えた、というのはちらちら聞きます。おるたなチャンネルのないとーさんも始めてますし、年齢層の低い方にも知れ渡っているのでしょう。

人気のモデルは実際の価値・定価とはどんどん乖離していって、「高いから」「値が上がるから」買う。投資が投資を呼ぶ。よく言われる「日本は借金大国で財政破綻しそうなのに円は強い!」の様に信用が信用を作る状態になっていると思います。

銀行の取付け騒ぎが起きるかの如く、時計市場に一度大きなショックが起きると相場が暴落するリスクは常々はらんでいると私は思います。

資産性だけじゃなくて、もっと美しさを楽しめばいいのに・・

また私の知る時計好きな方にあまりいらっしゃらないのですが、必ず資産性を最重要視して買う方も相当程度いらっしゃる様子。そうした方は「いくらで買った?」「次上がるのは何?」ということが主な話題だそうで。時計界隈で業界人として働いていらっしゃる方や、有名な愛好家の方々はそれに辟易している様です。

私個人としては、もちろん腕時計購入の一つの理由として資産性は全く否定するものではありません。

  • 資産性(=換金性)
  • ブランド認知度・ステータス性(せっかく買うなら高く見られたい)
  • 実用性(耐久度、パワーリザーブ等)
  • 用途(カジュアル、スーツスタイルに合う時計、等)
  • サイズ感(腕に合った寸法かどうか)
  • コストパフォーマンス(値段の割に仕上げがいい、機能が高い等)
  • コレクション性(色違いや持ってないシリーズをそろえたい欲求)

こうした要素を複合的に判断して買う、という決断をするわけですが、その上で「持った時のときめき」は非常に重要ではないでしょうか。腕に乗せてみて、眺めてみて、「はぁぁ・・」となれるかどうか。

例えば、その時計と同じ金額の札束を腕に巻いたとしたら、それはそれで「はぁぁ・・・」となるとは思います笑。でもそれは札束が非現実性が目の前にあるからであって、一度やったら飽きるでしょう。そしてお外には持っていけません。

その点、腕時計は感動に再現性があります。光の当たり方、場所によって表情も違います。自分の服装とあっているかどうか、その時計を身に着けている自分が好きでいられるかどうか。時計の美しさに思いを馳せることができるかどうか、それが時計を所有する大きな意味の一つだと私は考えます。

 

こちらは太陽光にさらされたランゲ1ですが、ランゲ特有の表面コーティングが反射して紫がかって見えます。ただのシルバーダイヤルではない、複雑な色味が私を「はぁぁ・・」とさせます。(腕毛が美しくなくて申し訳ない。。。)

お金、資産性が取りざたされ過ぎてしまっていますが、一つ一つの時計の美しさに目を傾けて、感じるまま時計を楽しもうよ、と私は声を大にしてお伝えしたい。

「楽しい・美しい」と感じることをさらに一歩踏み込んで、その因数分解をしていくと、思わぬ共通点や発見があり、自分の趣味嗜好の見つめなおしにもなります。時計を通して自分のことを深く知っていく、そんなことを考えながら時計選びをしていくことが私は楽しくて仕方ありません。

引き続き、私の「はぁぁ・・」をこのブログで皆様に発信できればと考えております。

 

ここまでご覧いただきまして誠にありがとうございました。

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