はじめてのドレスウォッチ選びシリーズも第4回になりました。これまでジャガールクルトとヴァシュロンコンスタンタンを見てきたわけですが、最初の候補先リストから考えると、残すところA.ランゲ&ゾーネだけになりました。今回はこれまでの記事通りブランド紹介と、サクソニア・ムーンフェイズの試着レビューをお送りします。
ちなみに、これまでの候補とその落選理由を挙げると以下の通りです。
モデル | 落選理由 |
マスター・ウルトラスリムムーン | コスパ高すぎ、「いい時計」過ぎる |
トラディショナル(スモセコモデル) | WGはディスコン。文字盤がややさっぱり |
パトリモニー(2針モデル) | ソリッドケースバックなのでムーブメントが楽しめない |
フィフティーシックス・コンプリートカレンダー | ステンレス素材であること、「雲上*複雑機構」はまたの機会に残しておきたい |
ブログの文面からは、だいぶサバサバっと切っている様に見えますが、実は一本一本惚れて、一本一本断腸の思いで見送っています笑。やっぱりこのクラスの時計は、実際に腕に巻くとトキメキが半端ないですもの。。一方で値段が値段だけに、選び方はシビアになり、納得したものを手に入れたいものです。
これまでのはじめてのドレスウォッチ選びシリーズは以下をご参照下さい。
「はじめてのドレスウォッチ選び①: 選び方と候補モデル」
「はじめてのドレスウォッチ選び②: ジャガールクルト編」
「はじめてのドレスウォッチ選び➂: ヴァシュロンコンスタンタン編」
A. Lange & Söhneとはどういうブランドなのか
世界5大時計の一角を成すこともあり、様々な素敵なポイントがありますが、私が考えるA. Lange & Söhneの特徴は以下の2つに集約されるかと思っています。
- 「Never Stand Still」が表す、強いブランドストーリー
- 職人が一つ一つ丁寧に作り上げていることがわかる、「温度感」
まずは歴史をたどりますと、A. Lange & Söhneは、かつて銀採掘で栄えたドイツのグラスヒュッテの町おこしとして、創業者アドルフ=ランゲが1845年に創設したことから始まります。時計学校の設立をはじめ後継育成にも力を注いだのち、ランゲのブランドは息子たちが後を継いでドイツ発のマニュファクチュールとして確固たる地位を築いていきます。
しかし第二次世界大戦において大きな変革を余儀なくされます。1948年には東ドイツに資産・設備が接収され、グラスヒュッテ国営時計会社として併合されてしまいました。
併合以降、歴史上からランゲの名前は消えますが、東西ドイツの統一が達成された1990年に子孫のウォルター=ランゲを中心に再興を果たします。
その際に手を差し伸べたのがドイツ財閥マンネスマングループ傘下のIWC ギュンター=ブルームラインでした。その4年後の1994年10月24日、新体制での第1コレクションを発表し、時計業界に戻ってきました。
従って、時計技師が宗教戦争によってスイス・ジュネーブ近郊に集まって自然発生していったというスイスの時計史とは異なり、ランゲはベンチャースピリットを持って(ある意味野心的に)時計作りを始めた、という点が大きく異なるのではないでしょうか。
また東西冷戦によって40年以上の空白期間があったにも関わらず、今日ランゲがあるのは再興の機会を諦めなかったウォルター=ランゲの不屈の精神があってこそです。「意志の強さ」「不屈の精神」がDNAであり、それはコーポレートスローガンの「Never Stand Still」(決して立ち止まらない)という言葉に強く表れていると思います。
これだけの文章ではランゲの歴史を語ることは難しいですが、ちょっと知るだけでもウンチクを語るには十分な歴史が身に付きますし、そして時計を手にすることでその歴史を背負える喜びがあるとしたら、それだけでも買う理由になりませんか?笑
そして「職人の温度感」という観点からは、2度組とエングレービングが大きな特徴です。
A.ランゲ&ゾーネの時計はすべてのモデルにて2度組を実施しています。これは他のブランドでは、上位モデルのみにおいて行われるそうです。
A.ランゲ&ゾーネではどのムーブメントもまず無装飾の状態で組み立て、機構が完璧に機能するまで調整します。そして、ムーブメントを再び分解し、超音波洗浄器で汚れを落とします。最初の工程で何度も使用した組立作業用のビスに代えて、今度は職人の手焼きによって青く染められたビスを使用します。4分の3プレートに独特のグラスヒュッテストライプ模様を付け、最後のゴールドシャトンを光沢が出るまで磨き上げると、いよいよ時計師が最終的に時計を組み立てて、もう一度機構を調整します。
引用: https://www.alange-soehne.com/jp-ja/manufactory/art-of-watchmaking/twofold-assembly
ランゲブティックの方から聞いた話だと、素人がビス一つ正しく組み込むためには50分もかかるものがあるとのこと。そんなものを一度組んでからもう一度組むという作業は、途方もない手間だと想像に難くありません。年間生産本数が5,000本前後だと言われており、年間生産本数が数十万本と言われているロレックスの100分の1にすぎません。熟練工のキャパシティもそこが限界なのでしょう。。。
またムーブメントのテンプ受けに彫られた花柄の紋様は、一つ一つオリジナルピースになります。彫師さんひとりひとりで特徴が違うそうです。シリアルナンバーの刻印があったり、職人の名前が彫ってあるピースは多いかと思いますが、装飾が一つ一つユニークというのはランゲにしかないのではないでしょうか?
A.ランゲ&ゾーネの時計には必ず、ハンドエングレービングを施したテンプ受けか、トゥールビヨンの受けが備えられています。A.ランゲ&ゾーネでは昔から同じモチーフが使われています。受けの中央にあるビスを縁取る花びらを中心とした、受けの独特な形状に調和するように彫り込まれた花柄の模様が、伝統のモチーフです。しかしエングレービングはどれも、世界に一つだけの作品でもあります。エングレービングには、それを彫ったエングレーバー独特の癖や、彫りの深さ、線さばきの勢いなどがあり、個性や味わいの違いとなって表れてきます。このエングレービングが、その時計をこの世に2本とない一点物にするのです。
引用: https://www.alange-soehne.com/jp-ja/manufactory/art-of-watchmaking/finishing-and-engraving
職人さん達が手作業をしているところの非常に高画質な美しいムービーを貼っておきます。非常に美しいのですが、職人さんが作業しているところを想像すると肩が凝ってきます笑。
ランゲの良いところはまだまだ沢山あるのですが、ざっくりとブランドの特徴はこんなところでしょうか。公式ホームページを見て印象的なのは、アンバサダー等を前面に出さずPR感がほとんどありません。余計な広告費は使わない、モノの良さだけで勝負してます!と言わんばかりのモノづくりに対する真面目な姿勢が見て取れます。こうしたブランドの特徴は、日本人の琴線に触れるのではないでしょうか?
ランゲの定番、サクソニアシリーズ
サクソニアシリーズは、ランゲの中でも最も多彩なラインナップを揃えるシリーズ。手巻き/自動巻き、デイト付き、ムーンフェイズ付き、更なる複雑機構付きのモデルが存在します。主要なところは以下の通り。
サクソニア | サクソニア・ アウトサイズデイト | サクソニア フラッハ | サクソニアムーンフェイズ | |
ムーブメント | 手巻き | 自動巻き | 手巻き | 自動巻き |
ケース径 | 35mm | 38.5mm | 37mm | 40mm |
ケース厚 | 7.3mm | 9.6mm | 5.9mm | 9.8mm |
パワーリザーブ | 45h | 72h | 72h | 72h |
価格 | 2,519,000円 | ASK | 2,717,000円 | 4,103,000円 |
2022年3月時点では、このプライスから15%前後安かったです。。。フラッハは確か220万円ぐらいだったような。大分高くなってしまいました。アウトサイズデイトに至っては、公式ホームページに値段が載っていません。
このサクソニアシリーズは、丸と直線のみで形成された、「時計」らしい時計という感じでしょうか。生真面目なドイツ人感がありありと感じられます。そして今回候補に入っていたサクソニアムーンフェイズはこちら。
サクソニア・ムーンフェイズ試着レビュー
ブティックに数回行きまして、はじめに伺った際はPGしかありませんでした。
めちゃくちゃかっこいいですよね。。PG狙いではなかったのですが、ムーンフェイズの空が透き通っていて非常にきれいです。フィルムをはがしたら大変なことになりそうです。
ランゲのPGは他のブランドのPGよりも赤さ・ピンクさが強いように感じました。ゴールドは会社によって含有成分が違いますので、もしかすると銅の分量が多いのかもしれませんね。
別日にお伺いした際に、WGとランゲ1があったのでそちらと一緒に。写真で並べてみるとあまり大きさ変わらない、というか一緒では?と思ってしまいますが、サクソニアムーンフェイズの方が一回り大きいです。
実機を見て感じた良い点は3つ。
- 均整の取れており、飽きの来ないであろうシンメトリーデザイン。デイト⇒針⇒ムーンフェイズが一直線で並び、調和がとれている印象をもたらしてくれるので、非常にまじめに見え、今回の昇進祝い・ビジネス時計という意味ではバッチリ
- ランゲの特徴であるアウトサイズデイトがある。どの角度からも見やすくて実用的。ブティックの店員さん曰く老眼にも優しいとのことで、長く使える!
- ムーンフェイズの星が非常に美しい。ジャガールクルトのマスターウルトラスリムムーンと比べて、夜空に浮かぶ一つ一つの星の輝きがはっきりしていて、見惚れる。。真面目さに加えて、遊び心もあるところが素敵
しかしながら、気になったところもいくつか。
- サイズ感が少し大きく感じてしまった。40mm * 9.8mm。ランゲの時計はベゼルがしているので、同じ公式寸法の時計と比べても大きめに見える
- アウトサイズデイトは瞬転式ではなく、12時になるにつれてゆっくりと変わっていくタイプ。せっかくなら瞬転式がいいな・・
- ミニッツマーカーの線が少し長く感じる。「毛深く」見える・・・
最後の点、「何言ってだ?」という感じかもしれません笑。こちらの画像で見ると伝わりますでしょうか?
あまりに悩み過ぎて、凝視しすぎて、ここが気になった人は世界で私だけかもしれません笑。よーく見ていただくと、毛深い様に見えてきませんか。。。笑
ムーンフェイズは非常に気に入りましたし、幸運なことに当時見に行った際にWGモデルが現品在庫として存在していた為、非常に揺れました。パトリモニーの様なドット型のミニッツマーカーだったらサクソニアにしていたかもしれません。サイズ感も相まって、最終的にはこの子には決められませんでした。
そしてランゲ1へ
なかなか決まらない、はじめてのドレスウォッチ選び。
サクソニアムーンフェイズは最後まで悩みましたけど、どうしても毛が気になる。。
そして次回は記念受験的に試着したランゲ1について書いていきたいと思います。
ここまでご覧いただきまして、誠にありがとうございます。もしコメント等頂ければ、幸いです。
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